WordPressとWP Engineの戦いを時系列でまとめています。
タイムライン
日付は全て2024年です。
9月17日:マット・マレンウェッグ氏 は自身のブログで 、WP EngineがWordPressエコシステムに十分な貢献をしていないと批判した 。
9月20日:マレンウェッグ氏が、オレゴン州ポートランドで開催された「WordCamp US 2024 」の講演で、17日に公開していたブログの投稿 を発表し、WP Engineと同社に出資しているSilver Lakeを強く非難した (講演の様子:YouTube )。ちなみに、WP Engineはこのイベントのスポンサー でもある。
9月21日:マレンウェッグ氏が、WordPressの公式サイト に「WP EngineはWordPressではありません(原文:WP Engine is not WordPress )」というブログ記事を投稿 。記事中で「(WP Engineは)WordPressにとって癌」と非難する 。
9月23日:WP Engineが弁護士を通して、Automatticに「虚偽、誤解を招く、中傷的な発言」を止めるよう求める停止通告書(cease-and-desist letter) を送付 。WP Engineはマレンウェッグ氏がWordCampで講演する直前に「WP EngineがAutomatticに多額の金を支払わなければ、WP Engineに対して”焦土作戦”に出る」と「脅迫」したと主張した (マレンウェッグ氏は後にそれらのテキストメッセージを送ったことを認めた )。
同日、Automatticの弁護士も、WP Engineに独自の停止通告書 を送り、WordPress のブランドと知的財産権を侵害する行為をやめるよう求めた 。
9月25日:WordPress.orgがWP Engineをブロックする 。これにより、WP Engineを利用するユーザーは自動でのプラグインやテーマ、WordPress本体等のアップデートが不可能になる (ファイルのアップロードによる手動での更新は可能)。
9月26日:WordPressプラグイン「Contact Form 7 」の作者である三好隆之氏が、WordPress.orgがWP Engineをブロックしたことに対し支持を表明 。
9月27日:WordPress.orgが、10月1日 UTC 00:00までの一時的措置としてWP Engineのブロックを解除するとマレンウェッグ氏が発表 。
10月1日:WP Engineが、X(Twitter)上で、プラグインやテーマの更新のための独自ソリューション を正常に展開したと発表。
CloudflareのCEOであるマシュー・プリンス氏が、WordPress.orgを無料でホストすることをXで提案 。
10月2日:WP Engineが、Automatticとマレンウェッグ氏個人に対して恐喝と権力の乱用である として訴訟を起こす 。
10月3日:マレンウェッグ氏が自身の行動に賛同できないオートマティシャン(Automatticの従業員)が多数いることを受け、「アライメント・オファー 」という退職パッケージ(3万ドルまたは6か月分の給与のいずれか高い方を受け取ることができる)を用意し、退職者を募る 。その結果、全従業員の8.4%にあたる159人が退職。日本人オートマティシャンである高野直子氏も退社した 。
10月4日:マレンウェッグ氏は「WordPress.org は私個人のものです」とThe Vergeのインタビューで語った 。
ウェブデザインの権威であり、Automatticの諮問委員会のメンバー でもあるジェフリー・ゼルドマン氏が、自身は退職せずAutomatticに残るとブログで公表 。
10月5日:マレンウェッグ氏は自身のブログでこの一件を取り上げたCNBCの記事 を絶賛する 。
10月7日:Contact Form 7 の作者である三好隆之氏が、マレンウェッグ氏を全面的に支持するとブログで表明 (コメント欄にはマレンウェッグ氏から感謝の言葉 が寄せられている)。
10月9日:マレンウェッグ氏が、WordPress.orgのログイン画面 および新規ユーザー登録画面 に、WP Engineと関係がないことを確認するためのチェックボックスを新設する 。
10月12日:WP Engineが開発・提供しているプラグイン「Advanced Custom Fields(ACF) 」が、WordPress.orgによって没収され、「Secure Custom Fields(SCF) 」に変更された 。没収されたものには、プラグインのコードだけでなく、レジストリ(レビューやダウンロード統計など)も含まれている。これにより、ACFをWordPressの管理画面からアップデートした場合、SCFに自動で切り替わることとなる 。
マレンウェッグ氏はWordPressの公式ブログでこの変更を「フォーク」と述べている 。対し、WP Engineは「当社のACFプラグインは、当社の同意なしにWordPress.orgによって強制的に乗っ取られました。」と公式ウェブサイトに記している 。
マレンウェッグ氏はACFをSCFに”フォーク”した理由として、ACFのアップデートがWP Engineのウェブサイトから直接行われるようになったことを挙げている 。なお、これはWordPressがWP Engineからのアクセスをブロックしたことで発生した問題である。
10月13日:Ruby on RailsやHEY の開発者として知られるDHH(デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン )氏は、自身のブログ で「オープンソースコードレジストリを武器にすることは、決して許されることではありません。レジストリは中立的な領域のままでなければなりません。」と記し、マレンウェッグ氏によるACF没収を批判しています 。
10月17日:マレンウェッグ氏は「前回の機会を逃した人」に向けて、再び退職のオファーを提示した 。前回は退職金が「6カ月分」でしたが、今回は「9カ月分」を提示している 。の給与を受け取って退職する機会を再び提示しました。この呼びかけに応じて退職した場合、オフィスに置かれているものや貸与されていたノートPCは没収されるほか、Slackやユーザーアカウントも含めて、AutomatticとWordPress.orgへのアクセスも失われるとのこと。
10月18日:WP EngineがWordPress.orgへのアクセス権回復を求める申立書 を裁判所に提出する 。
10月22日:WP Engineの訴訟に対して、マレンウェッグ氏の弁護士は「WordPressはオープンソースだが、WordPress.orgはマット・マレンウェッグが個人で所有し運営するウェブサイトであり、WP Engineからのアクセスを維持する義務は無い」と裁判所に提出した文書で回答する 。
10月28日:WordPress.orgに14年以上にわたって貢献してきたエンジニアのクリス・ウィーグマン氏が、WordPressとの決別を宣言する 。
11月7日:騒動が起こった9月21日以降に 、WP Engineからどれだけのサイトが移行したかを示すサイト「WP Engine Tracker 」をAutomatticが公開 (このサイトが具体的にいつ頃できたのかは不明だが、ドメインが登録されたのは2024年10月03日 となっている)。
用語集
渦中の人物、企業、ブランドについて。
WordPressの開発者
WordPress.orgの所有者
Automatticの創業者兼CEO
WordPress Foundationの取締役
WordPress
WordPress.org
WordPressの公式サイト
開発者のコミュニティ(SNS機能)を備えている
プラグインやテーマのディレクトリを備えており、事実上、WordPressの機能の一部
取締役が3人おり 、そのうちの1人がマレンウェッグ氏
マレンウェッグ氏個人が所有している
WordPress Foundation
マレンウェッグ氏が創業したウェブ開発企業
営利企業
現在のCEOはマレンウェッグ氏
WordPress.comやTumblr、Day One等を運営している
X上では文字数制限に配慮し「A8C」と略されることも。
WordPress.com
WordPressを元にした無料ブログサービス(有料プランもある)
Automatticが運営している
WP Engine
2010年に創業したWordPressに特化したレンタルサーバー会社
プラグインの開発・提供なども行っている(例:Advanced Custom Fields )
WordPressへの貢献が少ない事を理由にマレンウェッグ氏から非難される
ACF
「Advanced Custom Fields」の略
WP Engineが提供しているWordPressプラグイン
WordPress.org上(WordPressの管理画面上)で配布されているものは、WordPress セキュリティチームによって、「Secure Custom Fields」に作り替えられた
Silver Lake
テクノロジー業界を中心に投資を行う投資会社(プライベートエクイティファーム)
2018年からWP Engineに投資しており、株の過半数を所有している 。
筆者の感想
筆者は「マレンウェッグ氏の主張に100%賛同するが、やり方には100%賛同しない」という立場です。
いろいろ事情はあるのでしょうが、やはり罪のないユーザーの事は巻き込まないでほしかったです。
また、マレンウェッグ氏の立場は、この戦いをする上で非常に悪いものです。
実際の気持ちはどうあれ、客観的には「マレンウェッグ氏がWordPressのコミュニティを利用して、競合他社のビジネスを攻撃している」ようにしか見えません。
マレンウェッグ氏はWordPress.com(WordPressをベースにしたブログサービス)とPressable(WordPress用のレンタルサーバー会社)をAutomatticの事業として運営しているためです。
WordPress.comはまだしも、Pressableに関してはWP Engineと全く同じビジネスを提供している完全な同業他社であり、この会社をAutomatticが保有している以上、マレンウェッグ氏がどれだけオープンソースの理想を語っても、「WP Engineが潰れれば、ライバルが減ってお前は金儲けできるもんな」という話にしかなりません。
筆者としては、マレンウェッグ氏にそこまで悪意があるとは思いませんが、客観的にはライバル企業を攻撃している状況であり、それも同氏のやり方に賛同しかねる点です。
参考