FIREとは、若いころから収入の多くを積極的に貯蓄・投資に回し、通常(定年)より早くリタイア(現役引退)する事で、仕事に追われない悠々自適な生活を目指そうとする考え方やライフスタイルのことです。
“FIRE”とは「Financial Independence, Retire Early」の略(頭文字)です。
日本語にすると「経済的自立、早期退職」という意味です。
英単語の「Fire(火)」は無関係ですが、読み方はこちらと同じ「ファイヤー」や「ファイア」です。
FIREは、生活のためにお金を稼ぐことより、自分の好きなことに時間を使うことに価値を感じるアメリカの若者を中心に、ブーム(FIREムーブメント)になっています。
日本でも若年男性の間で早期リタイアを希望する方が増えています。
金本さんは、若手男性が早期リタイアを希望する心理について「仕事に対する意欲が低下したわけではない」とした上で、「プライベート重視」の意向が広がっていることや、日本型雇用の減少といった労働環境の急速な変化で「将来像を描きにくい」などの可能性も指摘した。
出典:早期リタイア希望の20~30代男性、7年間で「倍増」 その背景は? | 毎日新聞
これまでの早期リタイアとは何が違うのか?
「早期リタイアして悠々自適な人生を送る」という考え方はこれまでもありましたが、FIREが従来の早期リタイアと違う点は、主に2つあります。
1つは20代や30代など、人生のより若い段階でリタイアする事(を目指していること)。
もう1つは、必ずしも贅沢をしたいわけでは無く、むしろ質素で良いので、仕事に縛られずに自由に生きたいと考えている事です。つまり、経済的・物質的な豊かさよりも、精神的・時間的な豊かさを追求しているという事です。
出世レースや過労、上下関係など、仕事に付随する苦労から逃れて、穏やかに生きていきたいという人たちがFIREを目指しています。
2015年に31歳でFIREを達成したカナダ人のクリスティ・シェン氏はこう述べています。
シェン氏にとって「リタイア」とはビーチでくつろぐことではない。「(彼女にとってのリタイアとは)投資ポートフォリオから得られる不労所得で生活を維持できるようになり、働くか、働かないかを自分で選べること」(シェン氏)だという。
出典:仕事に縛られなければ生活費は安く済む。1億円を貯めて31歳でリタイアした女性からの助言 | Business Insider
同じくFIREを達成したローレン・キーン・オーモンド氏はこう言います。
最近夫とともにFIREを達成したローレン・キーン・オーモンド氏によると、人によってFIREの意味は異なるそうだ。
「FIREムーブメントの目的は、仕事を選択肢の1つにすることにある」とオーモンド氏は言う。「今の私と夫のように、仕事を続けてもいいのだ。旅行をしてもいいし、ボランティアをしたり、パートタイムで働いたり、転職あるいは学校に通い直してもいいだろう。つまり、仕事を辞めることではなくて、自分の時間の使い方を自分で好きに決められる状態を目指すのだ」
オーモンド氏が指摘するように、FIREを達成した人の多くは仕事を完全に辞めるわけではない。もちろん、引退して、仕事以外のことに時間を使う道を選ぶ人も多いが、それまでの仕事を続ける人もいるし、収入は減るが自分がやりたい仕事に転職する人もいる。
出典:FIREムーブメントとは何か? その歴史からメリット・デメリットまで、総まとめ | Business Insider
そのため、「会社を起業・売却し、億万長者になってリタイア」というようなライフスタイルは、FIREムーブメントでは(あまり)言及されません。
基本的には積極的に節約し、積極的に貯金するというリーン(無駄のない)ライフスタイルを提示します。
FIREを実現する方法
どうすればFIRE…すなわち、経済的自立と早期退職をする事が出来るのでしょうか?
収入を増やすことも大事ですが、何より重要なのは貯蓄率の高さです。
浪費をせず支出を抑え、収入の多くを投資に回し、FIREに必要な額を用意するのが基本です。
そして、用意した貯金を元本に投資(資産運用)をする事で、リタイア後(仕事を辞めた後)の生活費を賄うのが基本的なライフスタイルです。
2021年にGoogleを退職してFIREしたシェリー・ジャン氏はこう述べています。
「私が学ばなければならなかったのは、行動面、あるいは習慣の部分でした」と彼女は語った。「市場の動きを追って何が面白いのかを知るだけでは十分ではありません。『今月は給料が入ったばかりだ』とか『今月はボーナスが入ったばかりだ。すぐに投資しなくちゃ』と考え、決してお金を無駄にしないことの方が重要です」
出典:An Investor With a Seven-Figure Portfolio Shares Her Barbell Strategy – Business Insider
また、複利を活かして資産形成を行う為に、早い時期に投資を始める事も重要なポイントです。
資金を市場で働かせる時間は重要なので、早い段階で投資を始めて頻繁に繰り返すことで、FIREを達成する可能性が最大になる。わずか2〜3年の違いが、ポートフォリオで数十万ドル(数千万円)の差に広がることもある。
出典:FIREムーブメントとは何か? その歴史からメリット・デメリットまで、総まとめ | Business Insider
FIREを実現する為に必要な金額は、年間生活費の25倍のお金と言われています。
参考:FIREするにはいくら必要なのか?目安は年間生活費の25倍
日本の制度について学ぶ
FIREを目指す人は世界中にいます。ここで重要なのは、国によって税制や年金制度などに差がある事です。海外の事例から学んでも、日本では役に立たないという可能性もあるという事です。
FIREを目指す際は、社会保障制度や税制優遇制度、退職金制度や高齢者雇用制度など日本の制度についてよく調べましょう。
FIREムーブメントの種類
「FIREムーブメント」には様々な”レベル”があります。生活費の全てを貯金と投資で賄うライフスタイルだけが”FIRE”ではありません。
通常のFIRE
通常のFIREは、生活費を貯金と投資(資産運用)によって賄うライフスタイルの事です。
仕事を止めても、生活水準はそのままで、生活費も変わりません。
一般的に「FIREムーブメント」と呼ばれているのはこれです。
FIREでは、生活費の25倍の貯蓄(収入)を用意する必要があります。
つまり、現在年間500万円使っている場合は、単純計算で1億2,500万円の貯金や収入の当て(資産運用による配当など)が必要です。
副業と組み合わせる「サイドFIRE」
経済面を貯金と投資だけに頼るのではなく、自分の好きな事を仕事にしたり、アルバイトの仕事と組み合わせて賄う「サイドFIRE」というものもあります。
完全にリタイア(≒仕事をしない)のではなく、自分がやりたい仕事や好きな仕事を始めたり、自分のペースでゆとりをもって働き、不足分を資産運用で賄うというライフスタイルです。
FIREの実現には、「株式投資で得られる配当金を不労所得として生活費にする」「生涯にわたって必要な資産を築き、退職後に切り崩す」という方法がありますが、投資家のぽんちよ氏が勧めるのは、「サイドFIRE」という方法です。サイドFIREは、資産をある程度積み上げ、早期退職はするものの、退職後は「資産収入+労働収入」の組み合わせにより生活していく方法です。
出典:それでも早期退職したい人にサイドFIREという策
従来のセミリタイアのような形ですね。
FIRE後も労働をするこの形であれば、通常よりも少ないお金でFIREが可能です。
また、経済的側面だけでなく、人との繋がりを保ち、仕事の充実感を抱けるのも大きなメリットです(FIREによって人とのつながりが欠如してしまい苦しむ人もいるのです)。
バリスタFIRE
バリスタFIREは、健康保険を目当てにアルバイトを行うFIREです。
アルバイトにも健康保険を提供している数少ない職場がコーヒーチェーンの「スターバックス」であるため(*あくまで米国の話)、バリスタFIREと呼ばれています(バリスタとは喫茶店やカフェでコーヒーを提供する人の事)。
米国では健康保険が馬鹿にならないためこのような形のFIREが生まれたと言われています。
従来の概念でいうところの「セミリタイア」や上記の「サイドFIRE」に似ていますね。
リーンFIRE/スリムFIRE
リーンFIREは、リタイア後に質素でミニマムな生活…つまり生活費を抑え、節約し、支出の少ない日々を送るFIREです。
スリムFIREとも呼ばれています。
例えば、生活費の安い地域に引っ越したり、食料を自家栽培で賄ったり、贅沢品や嗜好品(例えばお酒や旅行)を控えるなどの方法があります。
また、リタイア、すなわち仕事を辞めること自体も節約に繋がります。
シェン氏によると、リタイア後の生活は多くの人が考えているほどコストがかからない。
「みんな意識していないと思うけど、わたしたちは『働くため』にたくさんのお金を使っている。わたしはそこに気づいたんです。毎日の通勤にいくらかかる? プロフェッショナルに見える服装とそれをクリーニングに出すお金は? 子供のいる人たちは託児所などにいくら出費しているの?」
シェン氏はトラビ氏にそう説明し、「その立場にならないと実感できないけど、仕事に関する経費がなくなれば、生活コストは下がるんです」と続けた。
出典:仕事に縛られなければ生活費は安く済む。1億円を貯めて31歳でリタイアした女性からの助言 | Business Insider Japan
リーンFIREは、支出を減らすため、通常のFIREより必要な額が少なくて済むのが特徴です。
例えば、年間の支出を250万円に抑えられる場合、FIREに必要な額(25倍)は6250万円になります。
ちなみに、リーン(lean)とは「無駄がない、効率的な」という意味です。
ファットFire
ファットFIREとは、リーンFIREとは逆に、倹約をしない贅沢な生活を送るFIREです。
仕事を辞めてからも、旅行に行ったり、好きなものを買ったりしたい方向けのライフスタイルです。
当然、通常のFIREより必要なお金は多くなります。
例えば、自分の理想の生活のために年間1,000万円必要な場合、FIREに必要な額(25倍)は2億5000万円になります。
ちなみに、ファット(fat)とは「太った、多額の」という意味です。
コーストFIRE
コーストFIREは、生活に必要な貯蓄・資産は用意した上で、趣味として自分が好きな仕事に取り組むFIREです。
「人の役に立ちたい」という想いを実現したい方や社会とかかわりを持ちたい方が選ぶFIREです。
必ずしも早期リタイアは目指しません。なので、コーストFIREはもっともハードルが低い初歩的なFIREになります。FIREを始めたら、最終目的は何であれまずはお金に苦労しない日々を送るコーストFIREを目指す事になるでしょう。
コースト(coast)とは「何の苦労もせずにやっていく」等の意味があります。
FIREのメリット・デメリット
FIREのメリットは何と言っても「経済的な余裕を持ち、仕事に縛られない生活を送れる」という事です。
のんびり本を読んだり、ボランティア活動を始めたり、新しいビジネスや転職に挑戦したり…目先の仕事に撲殺される事なく、自分のやりたい事を追求できます。
引退をせず仕事を続けていたとしても、経済的に余裕があれば、心持ちが違います。
一方で、FIREにはデメリットもあります。
一番はやはりお金を貯めるまで相当な苦労や努力が必要だという事です。
無駄遣いをせず節制して生きるのは、人によっては非常に苦しいでしょう。
また、引退後の生活が特に楽しくなかったり、急な株式市場の下落でポートフォリオの見直しが必要になったり…
目的と手段が逆転し、FIREを目指す事で逆に心身の余裕がなくなってしまう可能性があります。
FIRE経験者のトニー氏はポッドキャストで、FIREには「人とのつながり、仕事の充実感、そして現金」の3つの要素が欠けていると語っています。中でも、人とのつながりが欠如している事に最も苦しんだとの事。
「引退したあと、私はいわば自分自身のライフスタイルを築こうとしたが、そこには仕事以外で習慣的に他人と接触する機会がほとんどなかった」とトニーは語り、こう続けた。「これは大問題だった。もし今からやり直せるとしたら、日常的に——毎日ではなくても、少なくとも毎週の予定に——人との接触を組み込むと思う」
出典:たった2年で「FIRE卒業」をした男性が語る、早期退職で見失った3つのもの | Business Insider Japan
FIREを目指す際は、自分の人生についてよく考え、何を大切にして生きるか自分の優先順位についてよく考える事が大切です。
まとめ
FIREについて本気で考えてみる事は、自分の目指す働き方や理想のライフスタイル、ひいては人生について考えるきっかけにもなります。
FIREを現実的なアイデアに思えない方も、自分の人生を見つめなおす為にFIREについて考えてみてはいかがでしょうか?
Briefing
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