WordPressとWP Engineが揉めている件について #WPDrama

(2024年10月15日)

WordPressとWP Engineが揉めている件について、筆者の感想です。


筆者は「マレンウェッグ氏の主張に100%賛同するが、やり方には100%賛同しない」という立場です。

いろいろ事情はあるのでしょうが、やはり罪のないユーザーの事は巻き込まないでほしかったです。

また、マレンウェッグ氏の立場は、この戦いをする上で非常に悪いものです。

実際の気持ちはどうあれ、客観的には「マレンウェッグ氏がWordPressのコミュニティを利用して、競合他社のビジネスを攻撃している」ようにしか見えません。

マレンウェッグ氏はWordPress.com(WordPressをベースにしたブログサービス)とPressable(WordPress用のレンタルサーバー会社)をAutomatticの事業として運営しているためです。

WordPress.comはまだしも、Pressableに関してはWP Engineと全く同じビジネスを提供している完全な同業他社であり、この会社をAutomatticが保有している以上、マレンウェッグ氏がどれだけオープンソースの理想を語っても、「WP Engineが潰れれば、ライバルが減ってお前は金儲けできるもんな」という話にしかなりません。

筆者としては、マレンウェッグ氏にそこまで悪意があるとは思いませんが、客観的にはライバル企業を攻撃している状況であり、それも同氏のやり方に賛同しかねる点です。

マット・マレンウェッグがWordPress開発者のアカウントを一方的に無効化

(2025年1月12日)

マレンウェッグ氏は1月11日のブログ投稿で、Joost de Valk氏とKarim Marucchi氏のWordPress.org アカウントを「WordPressのフォークを計画している」事を理由に無効にしたと発表しました

なお、両者は「新しいWordPress」や「WordPressから独立したリポジトリ」の実現可能性について議論していただけであり、彼らの計画を「フォーク」と呼んでいるのはあくまでマレンウェッグ氏だけです(両名はフォークする予定は一度もなかったと述べています)。

また、同時にセ・リード氏、ヘザー・バーンズ氏、モーテン・ランド=ヘンドリクセン氏のアカウントもほとんど説明なく無効化していることをマレンウェッグ氏は明らかにしました。

ランド=ヘンドリクセン氏は、自分らのアカウントが無効化されたのは、方向性の違いからマレンウェッグ氏に恨まれているのが理由であると推測しています。

マレンウェッグ氏は、Joost de Valk氏とKarim Marucchi氏、そしてセ・リード氏のWordPress.org アカウントを無効化しました。これはマット自身が失敗したより持続可能なガバナンスとエコノミーを構築しようとしたためです。

出典:Morten Rand-Hendriksen — Bluesky

なぜ彼(マレンウェッグ氏)はヘザーと私をターゲットにしているのでしょうか?それは、私たちが2017年に適切なガバナンス、説明責任、利益相反ポリシーなどの必要性について話し合い始めたからです。私たちは 2019年にプロジェクトを離れましたが、どうやら彼はまだ恨みを抱いているようです。

出典:Morten Rand-Hendriksen — Bluesky

参考:Matt Mullenweg deactivates WordPress contributor accounts over alleged fork plans | TechCrunch

WordPress.orgはマット・マレンウェッグが個人で所有し運営している

WordPressの共同創設者であるマット・マレンウェッグ氏の弁護士は、WP Engineの訴訟に対して、「WordPress.orgはマット・マレンウェッグが個人で所有し運営するウェブサイト」であると裁判所へ提出した文書で明確に述べました

WordPress.orgは、マット・マレンウェッグが愛するコミュニティのために個人で所有し運営するウェブサイトです。

WordPress.orgはWordPressではありません。WordPress.orgはAutomatticでもWordPress Foundationでもありません。

出典:Opposition/Response to Motion – #33 in WPEngine, Inc. v. Automattic Inc.

WP EngineはWordPress.orgが同社からのアクセスをブロックし、コミュニティとリソースの利用を制限したことについて、不当であると訴訟を起こしていました

これに対し、マレンウェッグ氏は弁護士を通して、「WordPressはオープンソースだが、WordPress.orgはマレンウェッグ個人のものであり、WP Engineからのアクセスを維持する義務は無い」と答えた形です。

マレンウェッグ氏は、以前にもThe Vergeのインタビューで、「WordPress.orgは私個人が所有している」と語っていました

関連記事:WordPressとWP Engineの戦い #WPDrama

WordPress騒動とは?WP Engineによる訴訟とその経過 #WPDrama

タイムライン

WordPressとWP Engineの戦いを時系列でまとめています。

2024年

9月17日:マット・マレンウェッグ氏自身のブログで、WP EngineがWordPressエコシステムに十分な貢献をしていないと批判した

9月20日:マレンウェッグ氏が、オレゴン州ポートランドで開催された「WordCamp US 2024」の講演で、17日に公開していたブログの投稿を発表し、WP Engineと同社に出資しているSilver Lakeを強く非難した(講演の様子:YouTube)。ちなみに、WP Engineはこのイベントのスポンサーでもある。

9月21日:マレンウェッグ氏が、WordPressの公式サイトに「WP EngineはWordPressではありません(原文:WP Engine is not WordPress)」というブログ記事を投稿。記事中で「(WP Engineは)WordPressにとって癌」と非難する

9月23日:WP Engineが弁護士を通して、Automatticに「虚偽、誤解を招く、中傷的な発言」を止めるよう求める停止通告書(cease-and-desist letter)送付。WP Engineはマレンウェッグ氏がWordCampで講演する直前に「WP EngineがAutomatticに多額の金を支払わなければ、WP Engineに対して”焦土作戦”に出る」と「脅迫」したと主張した(マレンウェッグ氏は後にそれらのテキストメッセージを送ったことを認めた)。

同日、Automatticの弁護士も、WP Engineに独自の停止通告書を送り、WordPress のブランドと知的財産権を侵害する行為をやめるよう求めた

9月25日:WordPress.orgがWP Engineをブロックする。これにより、WP Engineを利用するユーザーは自動でのプラグインやテーマ、WordPress本体等のアップデートが不可能になる(ファイルのアップロードによる手動での更新は可能)。

9月26日:WordPressプラグイン「Contact Form 7」の作者である三好隆之氏が、WordPress.orgがWP Engineをブロックしたことに対し支持を表明

9月27日:WordPress.orgが、10月1日 UTC 00:00までの一時的措置としてWP Engineのブロックを解除するとマレンウェッグ氏が発表

10月1日:WP Engineが、X(Twitter)上で、プラグインやテーマの更新のための独自ソリューションを正常に展開したと発表。

CloudflareのCEOであるマシュー・プリンス氏が、WordPress.orgを無料でホストすることをXで提案

10月2日:WP Engineが、Automatticとマレンウェッグ氏個人に対して恐喝と権力の乱用であるとして訴訟を起こす

10月3日:マレンウェッグ氏が自身の行動に賛同できないオートマティシャン(Automatticの従業員)が多数いることを受け、「アライメント・オファー」という退職パッケージ(3万ドルまたは6か月分の給与のいずれか高い方を受け取ることができる)を用意し、退職者を募る。その結果、全従業員の8.4%にあたる159人が退職。日本人オートマティシャンである高野直子氏も退社した

10月4日:マレンウェッグ氏は「WordPress.org は私個人のものです」とThe Vergeのインタビューで語った

ウェブデザインの権威であり、Automatticの諮問委員会のメンバーでもあるジェフリー・ゼルドマン氏が、自身は退職せずAutomatticに残るとブログで公表

10月5日:マレンウェッグ氏は自身のブログでこの一件を取り上げたCNBCの記事絶賛する

10月7日:Contact Form 7の作者である三好隆之氏が、マレンウェッグ氏を全面的に支持するとブログで表明(コメント欄にはマレンウェッグ氏から感謝の言葉が寄せられている)。

10月9日:マレンウェッグ氏が、WordPress.orgのログイン画面および新規ユーザー登録画面に、WP Engineと関係がないことを確認するためのチェックボックスを新設する

10月12日:WP Engineが開発・提供しているプラグイン「Advanced Custom Fields(ACF)」が、WordPress.orgによって没収され、「Secure Custom Fields(SCF)」に変更された。没収されたものには、プラグインのコードだけでなく、レジストリ(レビューやダウンロード統計など)も含まれている。これにより、ACFをWordPressの管理画面からアップデートした場合、SCFに自動で切り替わることとなる

マレンウェッグ氏はWordPressの公式ブログでこの変更を「フォーク」と述べている。対し、WP Engineは「当社のACFプラグインは、当社の同意なしにWordPress.orgによって強制的に乗っ取られました。」と公式ウェブサイトに記している

マレンウェッグ氏はACFをSCFに”フォーク”した理由として、ACFのアップデートがWP Engineのウェブサイトから直接行われるようになったことを挙げている。なお、これはWordPressがWP Engineからのアクセスをブロックしたことで発生した問題である。

10月13日:Ruby on RailsやHEYの開発者として知られるDHH(デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン)氏は、自身のブログで「オープンソースコードレジストリを武器にすることは、決して許されることではありません。レジストリは中立的な領域のままでなければなりません。」と記し、マレンウェッグ氏によるACF没収を批判しています

10月17日:マレンウェッグ氏は「前回の機会を逃した人」に向けて、再び退職のオファーを提示した。前回は退職金が「6カ月分」でしたが、今回は「9カ月分」を提示している。の給与を受け取って退職する機会を再び提示しました。この呼びかけに応じて退職した場合、オフィスに置かれているものや貸与されていたノートPCは没収されるほか、Slackやユーザーアカウントも含めて、AutomatticとWordPress.orgへのアクセスも失われるとのこと。

10月18日:WP EngineがWordPress.orgへのアクセス権回復を求める申立書を裁判所に提出する

10月18日:マレンウェッグ氏は、PMProのCEOであるジェイソン・コールマン氏に対し、プラグイン「Paid Memberships Pro(PMPro)」をWordPress.orgのプラグインディレクトリから引き上げるならACFと同じようにWordPress.orgのプラグインリポジトリにあるPaid Memberships Pro(PMPro)を乗っ取ると脅迫した

10月22日:WP Engineの訴訟に対して、マレンウェッグ氏の弁護士は「WordPressはオープンソースだが、WordPress.orgはマット・マレンウェッグが個人で所有し運営するウェブサイトであり、WP Engineからのアクセスを維持する義務は無い」と裁判所に提出した文書で回答する

10月28日:WordPress.orgに14年以上にわたって貢献してきたエンジニアのクリス・ウィーグマン氏が、WordPressとの決別を宣言する

11月7日:騒動が起こった9月21日以降に、WP Engineからどれだけのサイトが移行したかを示すサイト「WP Engine Tracker」をAutomatticが公開(このサイトが具体的にいつ頃できたのかは不明だが、ドメインが登録されたのは2024年10月03日となっている)。

11月14日:WP Engineは修正された訴状の中で、「Automatticとマレンウェッグが『独占的価格設定を強要』する為に、WordPressの商標を利用してWP EngineをWordPressコミュニティから締め出しており、米国の反トラスト法に違反している」と主張した

11月未明:WP Engineが提供していた有料プラグイン「ACF PRO」のフォークをWordPress.orgが提供開始。プラグインの名前は「Secure Custom Fields」で、ACF PROの全ての機能を保持しながら、ライセンスと更新のチェック、ドキュメントへのリンク、WP Engineへの帰属表示を削除している。ACF PROは年間39ドルからだが、SCFは誰でも無料でダウンロードできる。

このSCFは、通常のプラグインレビューを回避し、Automatticによって承認された

なお、無料版のACFをフォークした同名のプラグイン「Secure Custom Fields」も継続して提供されている。

12月10日:カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所が、WP Engineの訴えを認め、Automattic及びマレンウェッグ氏に対して仮差止命令を下す。これにより、Automatticおよびマレンウェッグ氏は、以下の対応を撤回する必要がある。

  1. WP EngineのWordPress.orgへのアクセス遮断の禁止
  2. WP Engineのプラグインやエクステンションの管理への干渉禁止
  3. WP Engineの顧客のWordPressインストレーションへの干渉禁止
  4. 72時間以内にWP Engineの顧客リストの削除とWordPress.orgへのアクセス回復
  5. ACFプラグインの制御権の返還

この命令を受け、WordPress.orgのログイン画面および新規ユーザー登録画面にあった、WP Engineと関係がないことを確認するためのチェックボックスが約2か月ぶりに無くなる。

12月11日:前述の判決を受け、WP Engineは「裁判所が、WP Engineとその顧客、ユーザーのためにWordPrterss.orgへのアクセスと機能を回復する仮差し止め命令の申し立てを認めてくれたことに感謝します」とXで述べた。また、AutomatticもXで「本日の判決は、現状維持を目的とした暫定的な命令です。(中略)裁判で勝つことを期待しています」と述べている

12月14日:WP EngineのWordPress.orgへのアカウントアクセス規制が解除され、ACFプラグイン返還されました

12月15日頃:WordPress.orgのログイン画面に、「Pineapple is delicious on pizza.」(訳:パイナップルをピザにのせると美味しい」ということに同意を求めるチェックボックスが登場しました。この変更は、WordPressの開発者(コントリビューター)によって、15日の遅くに発見されました

12月18日:Automattic が裁判外紛争解決を申請する

12月20日:WordPress.orgが、ボランティアに休暇を与えるため、ホリデー休暇を宣言し、以下の機能を停止すると発表

  • WordPress.orgでの新規アカウント登録
  • 新しいプラグインディレクトリの提出
  • 新しいプラグインのレビュー
  • 新しいテーマディレクトリの投稿
  • 新しい写真ディレクトリの投稿

2025年

1月9日、Automatticは、WordPressのプロジェクトに費やす時間を週あたり約45時間に縮小する予定だとウェブサイトで発表しました。Automatticは、この削減はWP Engineとの法廷闘争に関連する「多大な時間と費用」のせいだとしています。

WP Engineからの訴訟により、リソースを再配分することを決定しました。この法的措置により、本来なら WordPress の成長と健全性をサポートするために向けられるはずだった時間とエネルギーが大量に奪われてしまいます。WP Engine がこの法的攻撃を再考し、より広範な WordPress エコシステムに利益をもたらす貢献に再び注力できるようになることを期待しています。

出典:Aligning Automattic’s Sponsored Contributions to WordPress – Automattic

マレンウェッグ氏の過去の発言によれば、同社はこれまで週3,988時間をWordPressへの貢献に費やしてきたといいます。

また、これに加え、マレンウェッグ氏はWordPressのコミュニティメンバーが立ち上げた「サステナビリティチーム」を解散、閉鎖しました。このチームは、WordPressのコミュニティが、地球と社会のサステナビリティ(持続可能性)の為に何ができるのか考え、取り組むチームです。

このチームを解散させたことについては動揺が広がっており、批評家は強く非難しました。著名なテクノロジー ジャーナリストのカラ・スウィッシャー氏はこの行動を「奇妙で凶悪な行為」と評しています

1月11日、マレンウェッグ氏は、WordPress.org コミュニティのメンバー5名のアカウントを無効にしました。うち2名は、「新しいWordPress」や「WordPressから独立したリポジトリ」の実現可能性について議論していた事が理由です。

用語集

渦中の人物、企業、ブランドについて。

マット・マレンウェッグ

  • WordPressの開発者
  • WordPress.orgの所有者
  • Automatticの創業者兼CEO
  • WordPress Foundationの取締役

WordPress

  • オープンソースのCMS

WordPress.org

  • WordPressの公式サイト
  • 開発者のコミュニティ(SNS機能)を備えている
  • プラグインやテーマのディレクトリを備えており、事実上、WordPressの機能の一部
  • 取締役が3人おり、そのうちの1人がマレンウェッグ氏
  • マレンウェッグ氏個人が所有している

WordPress Foundation

  • WordPress.orgを管理する非営利団体

Automattic

  • マレンウェッグ氏が創業したウェブ開発企業
  • 営利企業
  • 現在のCEOはマレンウェッグ氏
  • WordPress.comやTumblr、Day One等を運営している
  • X上では文字数制限に配慮し「A8C」と略されることも。

WordPress.com

  • WordPressを元にした無料ブログサービス(有料プランもある)
  • Automatticが運営している

WP Engine

  • 2010年に創業したWordPressに特化したレンタルサーバー会社
  • プラグインの開発・提供なども行っている(例:Advanced Custom Fields
  • WordPressへの貢献が少ない事を理由にマレンウェッグ氏から非難される

ACF

  • 「Advanced Custom Fields」の略
  • WP Engineが提供しているWordPressプラグイン
  • WordPress.org上(WordPressの管理画面上)で配布されているものは、WordPress セキュリティチームによって、「Secure Custom Fields」に作り替えられた

Silver Lake

  • テクノロジー業界を中心に投資を行う投資会社(プライベートエクイティファーム)
  • 2018年からWP Engineに投資しており、株の過半数を所有している
参考