ピーター・ティールとルネ・ジラール

ピーター・ティール氏は、フランス出身の人類学者のルネ・ジラール氏から強い影響を受けています。

ジラール氏は、古代の神話や聖書から近代文学に至る膨大なテキストを分析し、人間は他者を模倣する傾向をもち、さまざまな暴力はこの模倣的欲望から生じるということを発見しました

ティール氏はこの「ミメーシス(模倣)」の概念に強く惹かれたといいます。

ティールがとくに気に入ったのは、ジラールの「模倣(ミメーシス)的欲望」という概念だった。ジラールは、「人間は何を欲していいかわからない生き物であり、自分の心を決めるために他者に頼る。他者の欲望を模倣するから、彼/彼女たちの欲するものを欲するのだ」と述べている。

「模倣的欲望」は、自分の欲求を他人に委ねるという主体性の放棄を伴うものであり、嫉妬、ライヴァル関係、内輪もめ、恨みを助長することにつながる。それはまた、暴力的なスケープゴート行為にもつながるとジラールは述べている。スケープゴート行為とは、集団や個人に対する迫害を行なう者たちが手を組むことで、さらなる大規模な紛争の発生を未然に防ぐ役割を果たすものだ。ティールはのちに、このフレームワークを使って政治、テック投資、文化などについての独自の理論を展開していくことになる。

出典:シリコンヴァレー随一のヴィラン(悪役)でカリスマ:ピーター・ティールの真実 | WIRED.jp

また、ジラール氏の著書「Things Hidden Since the Foundation of the World(邦訳:世の初めから隠されていること)」をジラールの最高傑作だと考えています

ティール氏が初めてこの本を読んだのはスタンフォード大学の学部生だった時で、彼はこの本を「恐ろしい本」と呼びましたが、それは彼の世界とビジネスに対する見方に深く影響を与えたといいます。

ティール自身が認めるように、模倣的欲望を捨て、競争から完全に離脱することは簡単なことではない。それゆえ、できる限り「模倣しない・競争しない」ということが、ビジネス、投資、そして理想的な社会構築原則となる。ティールは、資本主義社会は必ずしもゼロサムの競争社会になる必要はないという信念に基づき実践を続けてきた。ビジネス、特にスタートアップにおいて「模倣しない・競争しない」ことは「独占(モノポリー)」となる。つまりすでに競争が激しい領域に参入するのではなく、まだ言葉にもなっていないニーズに応え、ニッチな顧客をつかむビジネスをするのだ。

ティールがイーロン・マスクの会社と全面対決になることを避け、マスクを取り込んでPayPalをつくったこともまた、不毛な競争を避けた一例である。

出典:伝説的起業家、ピーター・ティール。その哲学思想と描く「理想の社会」とは | Forbes JAPAN

ティール氏はジラール氏の考え方が次の二点について特に強力であると感じたといいます。

(1) 競合他社は実質的な目標を犠牲にしてライバルに執着する傾向があり、そのため (2) 競争の激しさは根本的な価値について何も教えてくれません。人々はどうでもいいことで激しく競争し、一旦争うとさらに激しく争うようになります。

ジラール氏の思想に強く影響を受けたティール氏は、著書の「Zero to One」で「競争は負け犬がすること」と述べています。この言葉はティール氏の名言として広く知られています。

Imitatio

ピーター・ティール氏は自身の財団である「Thiel Foundation」を通して「Imitatio」というプロジェクトに取り組んでいます。

これは人間の行動と文化に関するルネ・ジラールの驚くべき洞察の成果を推し進めるために、2008年に設立されたプロジェクトです。

ピーター・ティール、ロバート・ハマートン・ケリー (1938-2013)、ルネ・ジラール (1923-2015) の対話の成果である Imitatio は、資金と人材の両方のリソースを活用して、すでに進行中の優れた研究を拡張し、重要な重点分野でプロジェクトを立ち上げたいと考えています。私たちは、模倣理論の理解を深め、その洞察をより広く応用し、世界を新たな観点から見ることによってもたらされる変革を目指しています。

出典:IMITATIO